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東京地方裁判所 平成元年(ワ)13962号 判決

原告 増田亮三

原告 小山源樹

右二名訴訟代理人弁護士 三山裕三

被告 株式会社フルハウス

右代表者代表取締役 村井成四郎

右訴訟代理人弁護士 川村明

同 鈴木隆

主文

一、本件訴えを却下する。

二、訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 被告の平成元年五月一〇日に開催されたとされる株主総会における村井奎二郎を取締役に選任する旨の決議が存在しないことを確認する。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

1. 本案前の答弁

(1)  本件訴えを却下する。

(2)  訴訟費用は、原告らの負担とする。

2. 本案の答弁

(1)  原告らの請求をいずれも棄却する。

(2)  訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二、当事者の主張

一、原告らの主張

1. 被告は、昭和五七年七月二六日に設立された株式会社であり、原告らは、被告の株主である。

2. 被告の商業登記簿には、平成元年五月一〇日に開催された被告の株主総会において、村井奎二郎(以下「訴外村井」という。)を取締役に選任する旨の決議(以下「本件決議」という。)がされた旨の登記がされている。

3. しかし、右株主総会は開催されておらず、したがって、本件決議は存在しない。

4. よって、原告らは、被告の株主として、本件決議が存在しないことの確認を求める。

二、被告の本案前の主張

1. 本件決議により被告の取締役に選任されたとされている訴外村井は、平成元年一二月二〇日、被告に対し、取締役を辞任する旨の意思表示をした。

2. また、平成二年一月一一日に開催された被告の臨時株主総会において、訴外村井を取締役に選任する旨の決議がされ、訴外村井は、就任を承諾した。

3. 被告の商業登記簿には、平成二年一月一九日をもって、訴外村井につき、辞任による変更登記及び前項の選任決議に基づく就任登記がされた。

4. したがって、原告らが本件決議の不存在の確認を求める利益はない。

三、被告の本案前の主張に対する原告らの反論

1. 本件決議の不存在が確定すれば、本件決議に基づき訴外村井が取締役として行った行為は無効となり、ひいては株主としての原告らの被告に対する権利義務に影響が生じることは明らかであって、これは、後刻、適法に取締役に選任されたことによって消長を来すものではない。

例えば、本件決議の不存在が確定すれば、訴外村井が在職中に受領した取締役報酬は、不当利得として被告に返還しなければならないものであるが、かかる会社財産の取戻しにつき原告らは株主として多大な利害関係を有している。

また、被告会社の代表取締役である村井成四郎の責任を追及するに当たっても、その前提として、本件決議の不存在を確定する必要がある。

2. 被告の本案前の主張を認めると、辞任しさえすれは、決議不存在の主張を容易にかわすことができることになってしまうが、こうした帰結は、それ自体、極めて不公正なものであって容認できないと同時に、決議不存在確認の制度を設けた法の趣旨にもとるというべきである。

3. したがって、被告の本案前の主張は、失当である。

第三、証拠関係〈省略〉

理由

一、いずれも弁論の全趣旨により成立の認められる甲第一、第二号証、乙第二号証に弁論の全趣旨を総合すると、原告らの主張第1項及び第2項の事実を認めることができる。

二、また、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第一号証、乙第二号証に弁論の全趣旨を総合すると、被告の本案前の主張第1項ないし第3項の事実を認めることができる。

三、ところで、取締役の選任決議の不存在確認を求める訴えは、取締役でない者が取締役としての外観を有する状態(例えば商業登記簿への登記)が生じている場合において、その者が取締役に選任されなかったことを確定することにより、その者が取締役として活動することを封じ、もって将来種々の問題が生じることを防止し、紛争を抜本的に解決することを主たる目的とするものであるから、その者が後の株主総会において適法に取締役に選任された場合には、そのような将来に向かっての抜本的解決の必要はないというべきであり、特段の事情のない限り、当該決議不存在確認の訴訟については確認の利益がなくなるものというべきである。

そこで、特段の事情の有無につき判断するに、仮に本件決議が不存在であるため訴外村井が取締役として活動した結果を覆す必要があるとしても、そのためには、関係当事者間において訴訟の提起等によって種々の法律上の問題を解決する必要があるのであって、本件決議の不存在確認のみによっては、既に行われた行為を巡る紛争の抜本的解決を図ることはできない。例えば、原告の主張するところの取締役報酬の返還請求は、本件決議が不存在であれば常に可能であるとはいえないし、訴外村井が関与して行った取締役会決議の効力も本件決議がなければ常に無効であるとはいえず、被告代表者である村井成四郎に対する責任追及についてもそれが常に可能であるとはいえないから、種々の法律上の問題について個別的手続と検討を経る必要がある。そして、仮にこれらの点が紛争となった場合においては、その紛争の当事者は、訴訟においても、また、訴訟外においても、常に本件決議の不存在を主張することができるのであるから、株主である原告らにより提起された本件訴訟において、それらの紛争のために、一般的に本件決議の不存在を確定しておく必要はないというべきである(なお、本件決議の不存在を確認する訴えは、いわゆる対世効を有するが、棄却判決は、対世効を有しない。)。したがって、右の諸事情は確認の利益を基礎付ける特別の事情とはなりえず、本件においては、他に、確認の利益を認めるべき特別の事情について、主張立証はない。

四、よって、本件訴えは、不適法であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九〇条を適用して(被告は、本件決議が存在することにつき、なんら主張立証をしない。そして、弁論の全趣旨によると、訴外村井の辞任とその後の選任決議は、本件訴えの提起後、本件訴えに対抗する手段として被告において取った特別の措置と認めることができるから、本件訴えが確認の利益を欠くに至ったのは、被告の事情によるものといえる。)、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡久幸治)

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